京都大学艦これ同好会 会員の雑記ブログ

京都大学艦これ同好会は、艦これを通じてオタクとの交流を深める緩いコミュニティです。普段はラーメンを食べています。

冬を送り、春を迎え

前の記事
https://kukancolle.hatenablog.com/entry/2021/05/11/190000kukancolle.hatenablog.com



マースレニツァは、16世紀以来の、複数日にわたって続く、非キリスト教徒の古代スラヴ人の祭日を起源とする祭日であり、冬を見送り春の農作業に取りかかることを祝う。正教会はマースレニツァを自らの祭日に含めている(大斎の前の「バターの1週間」)。古代では、この祭日は、後に人々の伝統的な習慣や儀式となった魔術・宗教的な側面を持つ多種多様な儀式(藁人形を燃やす、供物のパンであるブリヌイを焼く、仮装する、など)の一種であった。何世紀にもわたってマースレニツァは、宴会や遊び、山からのそり滑り、乗馬の大会などを伴う野外のお祭りの側面を保持してきた。
[訳注:マースレニツァの起源には諸説ある]

「ソヴィエト大百科事典」15巻より


3月。


鎮守府では毎年恒例の節分のお祭り騒ぎが終わり、日本古来の暦の上では春が来て一月(ひとつき)が過ぎた。立春の頃には、いくら旧暦では春とはいえ寒い日が続いていたが、桃の節句を過ぎればもう十分春の陽気を感じられるようになる。舞鶴ソメイヨシノは未だつぼみのままだが、梅は既に盛りを過ぎていて、本格的な春の訪れを予感させていた。



「春だね」
晴れた空を鎮守府の窓から眺めながら、私——響、あるいはВерный——はつぶやいた。

「もう3月だからね。ところで、そろそろだよね?」
隣のТашкентが訊き返した。

「……マースレニツァかい?」
「その通り、マースレニツァだよ。来週の月曜日から」
「そういやそんな時期だったね……」

マースレニツァは、私にとっては「余生」を過ごした地の、Ташкентにとっては故郷の祭りだ。冬を送り春を迎えるこの祭りは、冬が長い()の地の人々にとって、新年にも負けないほど大事なもの。
だから、ここにいない極寒のバルト海育ちのГангутも一緒に、マースレニツァにはブリヌイ——クレープやパンケーキのようなロシア料理——を焼いてみんなで食べるのが恒例だった。

「今年もパーティー、するんだろう?」
「もちろん! Гангутも呼ぶし、伊良湖と間宮にもキッチンを使う許可はもらってるよ」
「なら話は早いね」
「いやあ、楽しみだね。たくさん作って、みんなに配らなきゃ。せっかくのマースレニツァなんだから、賑やかな方がいいよね?」
「そうだね。賑やかなのは、嫌いじゃない」
Верныйは相変わらず素直じゃないなあ。(たま)のお祭りなんだし、素直に楽しみって言えばいいのに。そっちの方がみんな喜ぶと思うけどね」
「こういう癖ってそう簡単には直らないものなんだよ。……まあ、機会があったら、ね」
「それ、結局やらないやつじゃないかい?」

機会があれば日頃の感謝を素直に告げてみようかな、と思ったのは本当。実際にできるかは別問題だけど。
そして、春のお祭りというのは、私みたいな照れ屋が勇気を出すきっかけとしてはちょうどいいのかもしれない。





「よし、今年もブリヌイを焼くぞ! マースレニツァだからな!」
Гангутは今年も張り切ってるねえ」
「さて、やりますか」

マースレニツァの初日には、もうすっかり暖かくなっていた。鎮守府のキッチンには小麦や卵や牛乳などの各種材料が並んでいる。間宮と伊良湖曰く、鎮守府で契約している農家や問屋などからちょっと多めに持ってきてくれたらしい。仮に余っても大所帯だからどうにでも消費できるし、増えた分の材料費も微々たるものだから気にしなくていいとのこと。どうやら艦娘向けの福利厚生の一環だとか。確かに、たまにキッチンで何かを作っている艦娘を見かけるし、そうやってできたもののお裾分けに預かったことも幾度となくある。たとえば、この間はバレンタインデーだと言ってみんながチョコレートを作っていた。


「材料は冷蔵庫から出して室温に戻しておくぞ。どうせ混ぜるんだし、牛乳だけ電子レンジで少し温めておくという手もあるな。後でタネをしばらく寝かせるが、そのときに冷たくては室温で寝かせる意味がない」

Гангутが言う。手際がいいもので、材料はもう前から外に出してあったらしい。さあ、楽しい祭りの始まりだ。



「まずはボウルに卵2個を割り入れて、塩と砂糖を入れるんだよね?」
「塩と砂糖はどれくらい入れればいいのかな」
「まあ、好みに合わせて適当でいいだろう。塩は1つまみ、砂糖は大さじ1/2杯くらいか? 甘いのが好きならもっと砂糖を増やすといい。食べるときにジャムなどの甘いものを乗せるなら控えめでもいいかもな。よほど常識から外れた量を入れない限り失敗しないはずだ」

「それで、次は牛乳を入れて混ぜるんだね」
「牛乳は最終的に500mL入れるが、全部一度に入れないのがコツだ。少なすぎても水分が少なすぎて混ぜるのが大変になるから、まあ200か300mLくらいでいいだろう。残りは後で入れる」

牛乳と卵を軽く混ぜる。頃合いを見計らってГангутが小麦粉と粉ふるいを取ってきた。

「入れる小麦粉は200gだが、混ぜる前にふるいにかけておくと良い。小麦も一度にまとめて入れるよりは少しずつ分けた方がダマにならない。こういう一手間が効いてくる」

ボウルの上にふるいを持ち、ふるいの上から小麦粉を少し入れ、ふるいを揺らして粉を下に落とす。そして泡立て器で混ぜる。きれいに混ざったら、また小麦をふるいにかけて入れ、混ぜる。

水に溶けない小麦粉と液を完全に混ぜるには時間がそこそこかかる。もちろん、電動の泡立て器を使ってもいいけれど、無心に手で混ぜるのも存外悪くない。

「混ざって全体が均一になったら、残りの牛乳を混ぜるんだったね」
「ここまできたら休憩。生地をしばらく室温で寝かせるよ。最低でも15分くらいかな」
「15分あれば近海ならひと出撃できるな。さすがにしないが」




20分後。さっきまでサラサラだった液は、少しトロトロになっていた。
寝かせたタネにサラダ油を小さじ2杯入れて、混ぜる。ちなみに、サラダ油じゃなくて溶かしたバターでもいいらしい。


「さて、今から焼いていくぞ」

Гангутがフライパンに油を軽く塗り、コンロの火を点けた。

「2枚目からはいらないが、1枚目を焼く前には油を塗っておくべきだな。『1枚目のブリヌイは丸まる』なんてことにならないためにも」

Гангутが「丸まる」と言っているのはロシア語にそういうことわざがあるからで——«Первый блин — комом»、何事も初回は失敗するものだという意味だ——、実際には丸まるのではなく焦げついたり破れたりするのだが。

Гангутが少量の液をフライパンに流し入れ、軽くフライパンを回して薄く広げる。

「おー、相変わらずこの瞬間は何度やってもワクワクするねえ」
「しばらく待って、固まってきたらひっくり返す。薄くしてあるから、上の方が固まる前に下が焦げるようなことはないはずだ」

3人でフライパンを見守る。しばらくしたら串をブリヌイのふちの下に入れ、十分に固まってからひっくり返した。

「ひっくり返すのって難しいと思われがちだけど、端を手で持って裏返せばいいんだね」
「もちろん、フライ返しを使ったり、フライパンを振ったりしてひっくり返せるならそれでもいい。フライパンを振れるとカッコいいからな」


しばらく火を通して両面が焼けたら、できたブリヌイを皿に移す。

「きれいに焼けたね」
「この調子でどんどん焼いていくぞ。コンロが複数あるから手分けしよう」



20分後。液を全て使い切った頃には20枚ほどのブリヌイが皿に乗っていた。別に初めてのマースレニツァではないし、慣れていたから、幸い焼くのに失敗はしなかった。

「さて、食べようか。ブリヌイに乗せるものは何を用意してるのかい?」

具材の用意は私が用意することになっていた。

日本だとクレープといえば甘いものというイメージがあるが、ロシアではお肉やイクラ入りのブリヌイも普通に存在する。さらに、今日は他にも、ロシアだと定番だけど日本では手に入れにくいものを用意していた。スメタナとトヴォログだ。
スメタナサワークリームみたいなもので、トヴォログはカッテージチーズに似たチーズの一種。どちらもロシアの食卓には欠かせない乳製品で、特にスメタナはロシアの魂と呼んでもいいくらいだし、そこらへんの食堂でおかずとしてブリヌイを頼んだらけっこうな確率でスメタナが添えられる。そういうわけで、せっかくマースレニツァでブリヌイ祭りなのにスメタナがないなんてありえないのだ。

スメタナとトヴォログ、それと塩漬けのイクラ。他にも各種甘いもの、たとえばジャム、チョコレートソース、バナナ、レーズン、それにハチミチも用意してあるよ」
「ねえВерныйスメタナとかトヴォログって日本でも手に入るものなのかな」
サワークリームやカッテージチーズは手に入るけど、どうしてもロシアのとはちょっと違うからね。普段はそれでもいいけど、今日は特別な日だから自家製だ」
「よくやったぞВерный! イクラやジャムも美味いが、やはりブリヌイにはスメタナがないとな」

Гангутスメタナを皿に取り分け、ブリヌイに乗せる。そしてブリヌイを一口かじって満面の笑みを浮かべた。

「そうだ、この味だ。これでこそブリヌイだな」
「じゃあ、あたしはイクラをもらうね。……やっぱり美味しいなあ。ご馳走って感じだね」
「私はトヴォログを……ちゃんと美味しいね。自家製だから少し不安だったけど、この様子だと大丈夫そうだ」

3人で喋りつつ、ブリヌイを食べる。みんなが1枚目を食べ終わるまで、そう時間はかからなかった。

イクラがしょっぱいから甘いものが欲しくなってきたよ。次はチョコレートにしようかな」
「私はバナナを」
「そうだな……じゃあ私はジャムにしよう」






「確か、暁はイチゴジャムだったかな」

食べるのが一段落して、しばらくした後。私は姉妹たちの分を届けるために立ち上がった。

「みんなにお裾分けするのかい?」
「そうだね。冷えてしまう前がいいだろうから」

3つの皿にブリヌイを乗せ、前もって聞いていた味の希望の通りに、ジャムや蜂蜜やチョコレートソースを乗せる。そして、赤や黄色や茶色、色とりどりの皿を3つ盆の上に置く。

少し考えてもう1皿にブリヌイとトヴォログを乗せ、さらにナイフやフォークを4つずつ盆に乗せて、私はキッチンを出た。



しばらく廊下を歩くと駆逐艦のみんなが住んでいる区画に入る。ドア上部には部屋番号のプレートが、ドアには住人が誰かを示す張り紙があって、無機質な張り紙が気に入らない人は周りに装飾を描いたり別の張り紙を上から張ったりしていた。この建物は全体的にいかにも軍隊っぽく、内装も画一的で飾り気がないものだから、その中で扉の装飾は廊下の風景にちょっとした彩りを添えている。私以外の姉妹はみんなそうしていたはずだ。私は飾り気のないシンプルなものも嫌いではないから、そのままにしてあるが。

暁の部屋には何度も行っているし、何より私の自室に近いから迷うことはなかった。両手が塞がっていたので、ドアの前に立ち暁を呼ぶ。

「暁、いるかい?」

数秒もかからず「はーい」と返事があった。足音が近付いてきて、次にドアが開く。

「あ、響! クレープは完成したのかしら?」
「クレープというか、ブリヌイなんだけど。お邪魔するね」

ドアをくぐり部屋を見渡す。暁の部屋にはよく雷と電が来ているが、今は見当たらない。

「電と雷は?」
「2人は提督のとこに行ってるわ。そのクレープ、あの子たちの分よね?」
「まあね。2人には後で持っていくことにするよ」

盆の上に乗っていたイチゴジャムのブリヌイを暁の机に置く。それを見て暁が目を輝かせた。相当楽しみにしてくれていたらしい。

「ほら、ご所望のイチゴジャムのブリヌイだよ」
「美味しそう! これ、響が作ったのよね?」
「私だけじゃないけどね」
「ありがと、それでこそ私の妹よね! いただきます!」

暁がブリヌイを一口食べて、顔をほころばせた。

「美味しい! ふわふわで食感もすごくいいわ、これ!」
「それは良かったよ、作った甲斐があった」

ずいぶん美味しそうにブリヌイを食べる暁。私とは対照的に表情豊かだから、ずっと見ていても飽きない。
彼女が食べるのを見守っていると、ふとТашкентに言われたことを思い出した。

(たまには素直になったら、か……)

確かに、今が好機なのかもしれない。


「ねえ、暁」
「ん、どうしたの、響」
「いや、大したことじゃないんだけど、いつもありがとう、って」

私の言葉を聞いた暁は目を丸くした。よほど意外だったのだろうか。

「どういたしまして、って言えばいいのかしら。突然改まってどうしたの?」
「いや、たまには素直に言ってみようと思ってね。いつもお世話になってるし」
「変なの。当たり前じゃない、響は私の妹なんだから」
「それでも、だよ」

どうも素直になれない(たち)の私にも、暁は明るく優しく接してくれる。暁のその底抜けの明るさと優しさに、私はいつも救われていた。日々の生活や仕事には大変なことがいろいろあるけれど、それでもやっていけているのは間違いなく彼女のおかげでもある。

もっとも、そんなことまでは口に出せそうにないけれど。「ありがとう」とはっきり言うだけでも少し気恥ずかしいくらいなのに。



しばらく談笑しているうちに、暁もブリヌイを食べ終わった。

「ごちそうさま、美味しかったわ」
「どういたしまして」
「雷と電は提督の執務室にいるはずよ。ところで……」
暁が私の盆を見る。雷と電の分だけじゃなくてあと1皿多いことに気付いたようだった。
「ひょっとして、そのチーズかクリームみたいなのが乗ってるのは提督の分?」
「まあね。いつもお世話になってるし、これくらいは」

そして、願わくは、ちょっとでも素直に感謝の気持ちを伝えられますように。
今日の私ならきっと大丈夫だ。たぶん。



日当たりがよくないからだろう、執務室に向かう廊下はまだ少し寒かった。夏なら涼しくて快適なのだが、今はあまりゆっくりしているとブリヌイが冷めてしまうような気がして、少し足早に提督と妹たちのところに向かった。



「提督、いるかい?」
「おう、いるぞ」

なぜか開けっぱなしになっていた執務室のドアをくぐり、執務机の方を見ると提督が座って書類仕事をしていた。邪魔するのも悪いし、ブリヌイを置いたらすぐ戻ろうかと思ったが、雷と電がいない。暁の話では提督のところにいると聞いていたけれど。

「ブリヌイを焼いたからお裾分けしようと思ったんだけど……雷と電は?」
「必要な資料を取りに行ってもらってるよ。そんな時間はかからないはずだ」
「そうか、冷めないうちに帰ってくればいいけど」

盆をテーブルに置き、トヴォログのブリヌイを手に取って提督の机へ。

「提督の分も用意してあるから暇なときにどうぞ。ひょっとしたら甘いものが好きじゃないかもと思ったから甘すぎないチーズにしたけど、これでよかったかな?」
「え、俺の分もあるのか。悪いね、ありがとう。せっかくだし冷めないうちに頂こうかな」
「仕事、中断して大丈夫なのか?」
「大丈夫、ちょうど休憩しようと思ってたし、仕事なんていつでもできるから。美味しいものは美味しいうちに食べとくに限るさ」

提督は書類から目を上げ、机の横の小さな休憩用テーブル——これは部屋の備品ではなく提督の私物だ——に移ってブリヌイを食べ始めた。



「ありがとう」の一言が言えないまま時間が過ぎる。今思えば、さっき提督が自分の分があることに少し驚いていたときに「普段お世話になってるからね」と切り出せばよかったのだが、後の祭り。
提督は一口食べるごとに「美味い」と言うくらいの勢いで、いくら当該のブリヌイを焼いたのが自分と限らなくても、そんなに褒められるとむず痒い。それに、味付けにトヴォログを選んだのも、そのトヴォログを作ったのも自分だし。

「いやあ、美味しかったよ。俺このチーズけっこう好きだな。どこで買ってきたんだ?」
「市販のもので一番近いのはフレッシュチーズとかカッテージチーズかな。売ってるやつはロシア伝統の作り方とはちょっと違うから、これは自家製だけど」
「へえ、手作りなのか」
「今回は私が作ったんだ。スメタナっていうサワークリームも」
「なるほどな、どうりで美味しいわけだ」
「ちゃんと作れていたなら良かったよ」

このまま沈黙してしまう前に、意を決して口を開いた。

「ねえ、提督」
「ん、どうした?」
「その……」

「ただいまなのです!」
「はーい、司令官! 資料を取ってきたよ!」

言い淀んでいると、足音の後に元気な声がドアから飛んできた。思わず気が抜けてしまう。

「おう、おかえり雷、電。ところで響、何か用だったか?」
「いや……なんでもない」

なんというタイミングの悪さ。

帰ってきた2人はテーブルに置かれたブリヌイに気付いたらしい。

「あ、クレープなのです!」
「美味しそうね!」
「クレープじゃなくてブリヌイなんだけどね……せっかく焼いたからお裾分けしようと思って。雷が蜂蜜、電がチョコレートだったよね?」
「そうなのです!」
「そうね! いただきまーす!」
「いただきまーす!」

2人がテーブルに座ってブリヌイを食べ始める。一口食べると2人は歓声を上げた。

「美味しいわ!」
「美味しいのです!」
「それはよかったよ」

ここで言わずしていつ言う? そう思い、意を決して口を開く。さっきはタイミングが悪かったが、今度はもう邪魔が入ることはないはず。

「雷も電もいつもお世話になってるから、その、お礼も込めて、ね」
「お礼? お礼をされることしたかしら? その、どういたしまして?」
「どういたしまして、でも響にはむしろお世話になってるのです」
「そう、かなあ」
「そうなのです。頼りになるお姉さんって感じです」

普段電と雷の元気に助けてられてばかりのような気がするが、2人の視点からはそうでもなかったらしい。お世辞を言うような子じゃないのは知っているだけに、その真っ直ぐな言葉がくすぐったい。

そしてまだ提督に何も言っていない。でも、この流れなら言えるはず。きっと。

「もちろん提督も、ね。いつもお世話になってるから」
「いや、俺は上官だからなあ……当たり前のことをしているだけだし」
「それでも感謝してるのは確かだから」
「そういうことなら、どういたしまして。響にこういうこと言われるの、なんか珍しいな」
「たまには素直になった方がいいんじゃないか、ってТашкентに言われたから……」
「そっか、それはよかった」

「よかった」っていうのはどういうことだろう。

「『よかった』ってどういう意味?」
「えーっと、まあ、いい友達を持ったな、って意味、かな」
「自分の言ったことなのにそんなあやふやなのか?」
「まあそういうことだってあるだろ、たぶん」
「適当だなあ……」


でも、確かに、今の私には仲間がたくさんいる。
六駆のみんながいて、ТашкентГангутがいて、提督がいて、駆逐艦軽巡のみんなもいる。海外艦のみんなともそこそこ話すことがある。そういう意味では、私は今、幸せなのだろう。
いや、幸せだ。自信を持ってそう言える。




大丈夫だよ。私は一人じゃない。


そう心の中で呟くと、窓の外で庭の木が祝福しているかのように揺れた気がした。







文: ふぁぼん @syobon_hinata
幌延泊地のソ連艦提督、化学とコンピュータとロシア語とソ連史を嗜む東京の大学2年生。文学部進学予定の理系。
本作が人生初の二次創作SSでした。締切を豪快に破ってしまったのは反省しています……

special thanks: インターネットの各種レシピ動画・サイト(ロシア語/日本語)



次の記事
https://kukancolle.hatenablog.com/entry/2021/05/13/190000kukancolle.hatenablog.com