京都大学艦これ同好会 会員の雑記ブログ

京都大学艦これ同好会は、艦これを通じてオタクとの交流を深める緩いコミュニティです。普段はラーメンを食べています。

記憶

砲弾が雨のように降り注いでくる。輸送作戦中の私たちに対して敵戦力が強大すぎる。まともな武器を装備しているのは私だけ、か。後ろに続く僚艦を振り返りながら提督からの指示を思い出す。

『作戦中止。輸送装備をすべて投棄し全艦撤退せよ。』

指示通り即座に輸送装備を投棄し全速で海域から離脱した。大抵の場合、速力はこちらが優位なので敵は途中で追撃をやめる、はずなのだが今回は違った。身軽になったこちら側に対して、初めこそ距離を離すことに成功したが、砲撃回避のため之字運動をするうちぐんぐん距離を縮めてきた。このままでは追いつかれる。

「”全艦”撤退、ね。」

ゆっくりと息を吸い、僚艦に告げる。

「これより、二手に別れて敵の追撃を振り切る。みんなは三時方向に見える島に回り込んでそのまま全速で離脱。私はこいつで敵の注意を惹く。」指先でつまんだ弾丸を振る。案の定、みんなの反応は良くなかった。

「だーいじょうぶだって、私はバッチリ武装してるし、あとでちゃんと追いつくから、な?ただまあ、武装してるとはいえ、この状況で自分以外まで守れる自信はない。だから、ひきつけ役は私一人でやる、いいな?」

正直、無事にまた合流できる確証はない。それでも、このままじりじりと距離を詰められて全員沈むよりはいい。

「さ、のんびりしてると追いつかれちまうぜ。じゃあ、またな。」

返事を待たずにみんなと距離を取る。島の影に回り込むのを見届けて、空に向かって二発の弾を撃つ。月夜の中、弾丸はあっという間に見えなくなり、数秒のうちに空に小さな二つの太陽を作り出した。それと同時に太ももにくくりつけてある魚雷発射管から四本の魚雷を射出した。

「うぇ~、敵さん多すぎないかねえ。」

独り言を呟きながら、注意を惹くために敵艦隊へ近づいてゆく。予定通り、敵はこちらに集中砲火を始めた。砲弾と魚雷を避けながら島と反対側に敵艦隊を誘導する。しばらく追撃が続いたのち、ふと全身に悪寒が走り、九時方向を見やると、後ろからついてくる艦隊とは別の艦影が見え、視界の上方で、照明弾に照らされて鈍く光る物体が近づいてくる。

「マジか、別部隊……」

それが砲弾だと認識した時にはすでに全身に衝撃が走り、燃えるような痛みが全身に広がっていた。

 

 

 ***

 

 

「嫌な夢を見た。」

頭をかきながら、コップに汲んだ水を一気に飲み干す。

「やけにリアルだったな。」

頬をかすめる砲弾の感触や被弾した時の痛みは驚くほどリアルだった。まるで、自分が実際にあの場所にいたかのようだった。ただ、夢らしく曖昧な部分も多くあった。まず、あの場所には行ったことがないし、それがどこかも皆目見当がつかない。そして、一緒に輸送作戦をしていた仲間、命を張って救おうとした仲間の顔も声も思い出せない。結局、夢は夢でしかないらしい。

 

 

 ***

 

 

「そうそう、初めは肩幅くらいに足を広げた方が安定するのよ。」

手を握ってもらいながら、艤装をつけた状態で海上航行の練習をする。港に併設された演習場には射撃用の的がいくつも設置してあるが、今の私には海上で真っ直ぐ立つので精一杯で、あれを撃ち抜く技術はない。ようやく安定して砲を構えることができるようになった時、空襲警報のサイレンが鳴った。バランスを崩さないように慎重に陸へと向かう。

「ーーー!上!危ない!」

叫び声が聞こえ、上を見ると黒い物体が落ちてくる。回避行動を取れる技術は持ち合わせていない。私はただ、重力に従って近づいてくる爆弾をみつめて……

 

 

***

 

 

「どうしました?空を見つめて。」

「え?ああいや、なんでもない。ぼーっとしてた。」

「びっくりしましたよ。演習中に突然止まって空を見上げたまま動かなくなってしまわれたので。」

「ああ、それは悪かった。」

空襲に遭ったことはない。なのに、あれは。

「なあ、経験したはずのないことを現実のように感じることってあるか?」

「いえ、わたしはない、ですけど。」

「そっか。」

「でも、そういう症状の艦娘はたまにいるみたいですよ。特に、その……」

彼女は、言いづらそうに目線を逸らす。

「特に、なに?」

「その、一度深海棲艦化している方に多いと……」

「なるほどな~。まあ私には関係ないな。だって、」

と言いかけて、今までのことを思い出そうとする。

「だって、」

おかしい、思い出せない。みんなを庇って戦ったのはいつだったか、いや、あれは夢か。じゃあ、空襲を受けたのはいつ?あれも夢?いや、違う。どっちも夢なんかじゃない。じゃあ、二度も沈んで、なぜ今私はここにいる?沈むギリギリのところで救われて、そのせいで記憶が曖昧なのか。あるいは……

 

 

 

(文:わっさん)