みなさんこんにちは!インターネットだけで生きてたせいで、最近までSMAPやリプトンを知らなかったひゅうんです。
— ひ🇺🇦🇺🇦🇺🇦うん (@Pu239COMDESDIV6) 2022年3月27日
京都大学艦これ同好会5期生で、東北支部としての役割がある東北大学艦これ同好会の会長を勤めている東北大学工学部新3回生です。
東北大学などの仙台付近の大学に通う学生さんで、艦これに興味のあるという方は東北大学艦これ同好会に興味を持っていただければと思います。
さて、前回私は「米海軍のSLBM核弾頭史①」と題して退役済みの米海軍SLBM核弾頭を紹介したわけですが(読んでない人は読んでね)、今回は収まりきらなかった現役のもの、そして現在開発が実施/検討されているものについて紹介していきたいと思います!
W68の後継MIRV弾頭:W76
- 搭載SLBM:UGM-96A Trident I (C4) →UGM-133A Trident II (D5)
- 推測核出力:100kt
- 搭載再突入体:Mk4 Re-entry Body(MIRV)
- 開発研究所:ロスアラモス科学研究所(LASL)/サンディア国立研究所
それまでSLBM弾頭を開発していた放射線研究所(現LLNL)から変わって、ロスアラモス科学研究所(LASL)が開発したのがW76です。搭載SLBMが新しくなり、Trident I に変わります。このSLBMは、前のPoseidon C3より長い射程を持ち、次世代のオハイオ級SSBNに搭載できるように開発されました。(いくつかの旧型SSBNにも搭載されました。)
搭載できるW76-0/Mk4弾頭の数は8発 で、Poseidon C3より減少しましたが、代わりに核出力が大きくなっています。現在はTrident I の後継のTrident II に搭載されています。これは、さらに射程が長く精度も向上し、W76なら最大14発搭載できるとみられています。
SLBMの運用方法を変えた高出力弾頭:W88
- 搭載SLBM:UGM-133A Trident II (D5)
- 推測核出力:455kt
- 搭載再突入体:Mk5(MIRV)
- 開発研究所:ロスアラモス国立研究所(LANL)/サンディア国立研究所
W76の後継として、LASL(後に国立研究所に指定されLANL)が開発したのがW88です。
この弾頭は、搭載するSLBMの精度向上を受けて、それまで低い精度で問題なかった都市といった ソフトターゲットのみを目標としていたのを変更し、高い精度と相応の威力が必要な軍事施設(ハードターゲット)も攻撃するために、核出力が高く設定されています。
さらに、再突入時に表面が揮発し変形してしまい軌道を乱す問題のあった先端部(ノーズチップ)を、形状安定ノーズチップ(SSNT)にして、正確な攻撃ができるように進歩しています。
しかし…
起爆用原子爆弾のプルトニウムピット(核爆発を起こすプルトニウム部品)を製造していたロッキーフラッツ工場が、杜撰な管理と深刻な環境汚染をしているという内部告発により、1989年6月6日、FBIによる大規模捜査「砂漠の輝き作戦(Operation Desert Glow)」を受けてしまいます。この"襲撃"により、プルトニウムピット製造が停止、これを受けW88は量産中止を余儀なくされ、数千発あるW76のうちおよそ400発を置き換えるにとどまったとみられています。(弾頭の正確な数は非公開)
ポスト冷戦での核弾頭管理
核弾頭は、放射性物質の崩壊や腐食、炸薬の経年劣化などにより、常に性能が落ち続けています。冷戦期ではそのような弾頭を新しいもので置き換えてきましたが、冷戦の終結や前述のロッキーフラッツ工場の停止・解体を受け既存の弾頭の寿命延長に方針が切り替わりました。新たな Life Extension Program (LEP)と呼ばれる寿命延長や、それまでも存在したModification(Mod)、Alteration (Alt) と表現される核システムの変更を利用して、現在も複数の核兵器が改修されています。
- W76 mod1/Mk4A LEP:寿命延長と再突入体の変更。 起爆タイミングを調整して精度を向上する起爆装置を組み込み、ハードターゲットへの攻撃能力を向上しています。既にすべてのW76-0がW76-1または後述のW76-2に転換されています。
- W88 Alt 370:劣化する爆薬を置き換えと起爆装置の近代化
- W76 mod2/Mk4A:W76-1の低出力核弾頭バージョン。少数のW76がmod2に転換され、限定核戦争の抑止という新しい役割を担うため、 2019末に配備されました。
#NNSA’s recently completed W76-1 Life Extension Program helps the #US maintain a credible #nuclear #deterrent. And we did it under budget and ahead of schedule. Learn more:https://t.co/LKv6OakVXU#NationalSecurity #StrategicDeterrence #W76 #SLBM @US_Stratcom @USNavy pic.twitter.com/9BweNQpwQ2
— NNSA (@NNSANews) 2019年2月25日
またW76-1,2/Mk4B:Mk4AにSSNTを組み込んだ再突入体を開発し、W76の精度をさらに上げるプログラムも別に進行中です。(NNSAが担当する核弾頭と違い、再突入体の開発は海軍が担当しているので、LEPやModの枠の外だと思う。)
開発中の新型核弾頭:W93
- 予定される搭載SLBM:UGM-133A Trident II (D5)
- 推測核出力:?(数百ktだと思われる。)
- 搭載再突入体:Mk7
- 開発研究所:LANL / サンディア国立研究所
海軍と核開発を担当するエネルギー省の国家核安全保障局(NNSA)が2021年度に開始したプログラムがW93/Mk7です。公開されたある資料によると、W93の目的は以下の通りです。
- 威力の弱いW76への過度の依存を低減する
- ミサイル搭載数が減る次期SSBNに対応する
- ミサイルの射程を延ばし、より多くの目標を攻撃できるようにしつつ、SSBNのパトロール領域を敵から遠ざける
- より安全性の高い核弾頭を導入する
- 現在の古い弾頭備蓄にリスクヘッジを提供する
これを達成するため、W76より高威力で、軽量化されていて、新しい安全装置やより安全な物質を用いた新型核弾頭を生産すると予測されています。この弾頭は、2034~6年の間までに第一生産ユニットの完成を目指しています。なお、この弾頭はW76やW88を完全に置き換えるわけではなく、3つ目の核弾頭になるようです。
今後の核弾頭計画
3月に公開された、2022年度 備蓄弾頭維持管理計画によると、W88の後継弾頭のFuture Strategic Sea-Based Warhead (FSSW) とW76-1/2の後継弾頭であるSubmarine Launched Warheadの開発が予定されています。FSSWは2037~9年に第一生産ユニットの完成を目指しており、SLWも第一生産ユニットの完成時期を今後決定するようです。
さらに、 新しい核兵器を製造するためにプルトニウムピット製造施設の構築も進行しています。ロッキーフラッツ工場の年1000個には程遠いですが、LANLで年30個、サバンナリバーサイトで年50個の生産が計画されています。
おわりに
いかがでしたでしょうか!? 現代の核弾頭は、運用方法が変わり精度の向上に焦点が当てられていて面白いですね! 核弾頭に興味のない皆様も、この記事をきっかけにNNSAの文書を読み漁る独身異常人間になっていただけたら幸いです(?)。
最後に、京艦同元会長の有り難いお言葉で締めたいと思います。
終わりです pic.twitter.com/Dd0f0coKSK
— 神崎 (@kaku_nan1) 2020年7月1日