京都大学艦これ同好会 会員の雑記ブログ

京都大学艦これ同好会は、艦これを通じてオタクとの交流を深める緩いコミュニティです。普段はラーメンを食べています。

提督「最近、電のようすがちょっとおかしいんだが」

「……貴様、何を言っているんだ?」
 ある日の昼下がりだった。提督の呟きに、あきれ半分で向かいに座って仕事をしていた秘書艦——那智が応じた。
「おかしいと思わない?」
「だから、何がだ」
「電の様子が」
「……どこが?」
「電が最近、私に冷たいの」
「そうか?」
「そうだよ!!!!!」
「うぉっ」
 提督が勢いよく席を立つと、那智は驚いたように少しのけぞる。
「そりゃまぁ、最近多少電に厳しくしたかもしれないけど……私は基本的に、電に優しく接してきたつもりなの。それなのに!最近冷たいのよ!電ちゃんの態度が!」
 提督の熱弁を一通り聞き流した那智は、胡乱な目つきで黙り込んでいた。
「で、どう思う?」
「まず一つ質問だ」
「なぁに?那智
「貴様が電に対して厳しく接した要素を言ってみろ」
「例えばおやつを禁止にしたり……あとは夜ふかしとか禁止してるわよ、うん」
「お前の厳しいにはハチミツでもかけられてるのか……?」
 那智は頭を抱えた。提督が常日頃から電を甘やかしているのは、誰の目から見ても明らかだった。
「そう?これでも結構頑張っている方なのだけど……」
「頑張っている時点でダメだろうが……。まぁ、私に聞いても仕方あるまい。ここは有識者を募ってみた方がいいんじゃないか?」
「む、一理あるわね」
 そう言うと、提督はおもむろに部屋を飛び出していった。数瞬の間があり、くぐもった提督の声が鎮守府にこだまする。
「……あー、艦隊に通達。以下に呼ばれたものは執務室に集合すること——」
「こんなしょうもないことに通信を使うとは、鎮守府も末だな……」

「……というわけで、会議を始めるわ。そのためにみんなをここに呼んだの。こういう時ってどうすればいい?見守るべきか、声をかけるべきか……」
「その前に、いいだろうか」
 提督のしょうもない相談が始まろうとしたまさにその時、凛々しい声が執務室に響いた。
「なぜ私がここに呼ばれた?」
 彼女は戦艦、長門。かの大戦艦である。提督は居ずまいを正し、彼女の目を見据えて言った。
「だってあんたロリコンじゃん」
「よし、わかった提督。お前は今ここで私がくず鉄にしてやろう」
 長門は額に青筋を立てながら、好戦的な微笑みを浮かべている。
「まぁまぁまぁ!落ち着いて長門!ビックセブンがそんなことで怒らない!」
「……フン、まぁいい。話を続けろ」
「私もついでに聞いておきたいのだが……」
「あぁ、日向にはちゃんと理由があるわよ。いつも潜水艦狩りに駆逐艦と出かけているからね。駆逐艦については詳しいでしょ」
「ふむ……まぁ、そうなるな」
「日向には理由があるのか……納得いかん」
 提督は改めて咳払いをすると、面々——那智長門、日向を見まわしてから、厳かに語り出した。
「最近、電が私に冷たいの」
「「「……」」」
「ちょっとあんたたち、これ結構一大事なのよ?!鎮守府全体の士気に関係するわけ!わかる?!?!」
 ギャーギャー騒いでいる提督を尻目に、長門那智に耳打ちする。
「なぁ、那智。実際のところ、電は提督に厳しいのか?」
「私が知るか……反抗期なんじゃないか?」
「……」
「……冗談だ」
「秘書艦も大変だな……」
「提督、とりあえずどのあたりが冷たいのか聞かせてもらってもいいだろうか」
 至って真面目な雰囲気で、日向が提督に問う。
「日向……!あんた、一番大事な時にはやっぱり仕事するわね……!」
 無視されて涙目だった提督の顔が、みるみるうちに明るくなってゆく。
「そうね、まずは最近夜にこそこそ寮で何かしてるみたいなのよね……。あとは、部屋に入れてくれなくなったわ」
「……すまない那智、やはり反抗期かもしれない」
 長門は頭痛がしてこめかみを抑えた。
「提督、それはもうほぼストーカーとかそういう類の人間だろう……まずはそれを改めるところからだ」
「あんただってよく駆逐艦寮出入りしてんじゃない。似たようなもんよ」
「やはり一度教えてやる必要があるらしいな……」
「うそうそ、冗談だから!待って待って!……あ、はい日向さんどうぞ!」
 今にも怒りが爆発しそうな長門をいなしながら、提督は挙手している日向に話を投げた。
「わかったぞ、どうして電が冷たいのか」
「ほ、ほんと?!」
「あぁ、間違いない!」
「流石ね、日向!いつも瑞雲瑞雲言ってる変なコだと思ってたけど、あんたちゃんとやるべき時にやれる艦娘ね!……して、その心は?!」
 日向は、人差し指を立て、ゆっくりと深呼吸をしてから言った
「瑞雲だ」
「……は?」
「瑞雲、瑞雲だろう。きっと電は瑞雲の運用に憧れていたのだ。だが勝手に改装はできない。駆逐艦の身のまま、瑞雲を飛ばせるようになるために日々提督にも見せられないような特訓を……!」
「……よーしわかった。一旦ストップ」
「おい待て、話は終わってないぞ。ここから電が瑞雲を使えるようになるまでの三部構成でだな……」
「日向に聞いた私が間違いだったわ。誰か他いない?」
 ……この艦隊、本当に機能しているのだろうか。那智は不安になり、明日からの秘書艦業務をより一層引き締めようと心に誓った。
 その後、様々な案が飛び交うも結局議論は進まず。昼下がりから始まった会議は、いつしか夕方まで続いていた。
「……この鎮守府は、本当に大丈夫なのだろうか」
 中庭で逃げ回る提督と、それを追い回す長門を執務室の窓から眺めながら、那智は大きなため息をついた。
「まぁ、何事もないのが一番いいんじゃないか」
 お茶をすすりながら、日向がのんびりと話し始めた。
「それは、そうなのだが……」
「日常の些細なことで喧嘩している方がずっといいさ」
「日向、貴様まさか……」
 知っているのか、と那智が口にする前に、日向はすっと立ち上がって伸びをした。
「さて、私は帰って瑞雲の整備でもするかな」
「おい待て日向、質問に答えろ」
「まぁ、君の思っている通りだよ」
 日向は手をひらひらと振りながら執務室を出る。あとを追って那智が出てくるころには、既に廊下の角に消えてしまっていた。
「……やれやれ。あいつもあいつで不思議なやつだ、まったく」
 那智が執務室に戻ると、ちょうど窓の近くで提督が長門に捕まっているところだった。
「ようやく捕まえたぞ……お前、今日という今日は一発ぶちかましてやる……!」
「ごめんて!駆逐艦寮の合鍵渡すから!ねぇ!」
 提督を見ると、必死の形相で自分の身を守っている。那智は苦笑しながら語りかけた。
「……なぁ、提督」
「何よ那智!見ての通り今忙しいの!ていうか助けて!」
長門、向こうで海防艦達が探していたぞ」
「何っ?!行ってくりゅ!」
「……やっぱりアイツ、ロリコンじゃない……」
 光の速さで消えていった長門を見て、提督はじとっとした目つきで呟いている。
「貴様も、あんなに煽らなければいいのに……」
「いやぁ、だって面白いし?」
「はぁ……。それで電のことなんだがな、とりあえず、本人に聞いてみたらどうだ?貴様の言い方だと、避けられてから深追いはしていないのだろう」
「え?あ、まぁそうだけど……」
「なら、直接聞いてみるのが一番早かろう」
「でも電ちゃんに嫌われたら私もう……」
「今さらだろう……」
「え、えぇ……?」
「ええい、まどろっこしい!とりあえず行くぞ!」
「ちょ、ちょっと?!」

「電、いるか?私だ、那智だ」
「あ、はい。すぐ出るのです」
 那智の呼びかけに、電は少々ドタバタしつつ、すぐに応じた。
「どうかしたのです?」
「あぁいや、提督がちょっとな……」
「ふぇ、司令官さん?!」
「ちょっ那智……あ、電ちゃんどうも~……」
「あのっそのっ」
 電は、提督の姿を見た瞬間に露骨に焦り始めた。
「えっと、最近私のこと避けてるような気がするんだけど……なんか私悪いことしちゃったかな~……なんて」
「えと、あのですね……」
 電が何か話しだそうとしたその瞬間、部屋の奥の方から「にゃ~ん」と猫の鳴く声が聞こえてきた。
「……にゃーん?」
「はわわわ……」

「黙っててごめんなさいなのです」
 ……それから数分後。那智と提督は、電の部屋に上がっていた。彼女の部屋には、備え付けの家具に当番表、少しのぬいぐるみ、そして……。
「こないだの台風の日、ケガをして雨宿りしているのを見つけたのです。かわいそうだな、と思って……」
 本来、鎮守府で猫を飼うことは許可がないとできない。せめてケガが治るまで、と隠し通そうとした結果、電は提督を避けていたのだった。
「んもぉ~~~~焦った~~~~てっきり電ちゃんに嫌われたのかと……」
「そんなわけないのです!」
「ねこちゃんなんていくらでも許可するわよ!明日から執務室で飼っちゃいましょ」
「はいなのです!司令官さん、大好きなのです!」
「うぇえへへへ~~~~電ちゃんは可愛いねぇ」
 先ほどまでのためらいはどこへやら、提督は電を膝の上に載せ、それこそ猫のように撫でまわしている。
「これで元通り、か」
 考えてみると本当にばかばかしいことで一日を費やしていた。明日、提督が仕事量を見た時の表情を思い浮かべて、那智は苦笑した。
 なお、電が反抗期になった上に瑞雲を搭載可能な改二を欲しがるのは、もう少し先のお話……。