近代の戦争には英雄はなく、此度の戦争には敵がいなかったと後の歴史家は語った。
"戦争からきらめきと魔術的な美がついに奪い取られてしまったと前世紀の大戦でチャーチルは語った。アレキサンダー や、シーザー や、ナポレオンが兵士達と共に 危険を分かち合い、馬で戦場を駆け巡り、帝国の運命を決する。 そんなことはもうなくなったと。次に戦争は敵を失った。憎悪と怒りを奪い去った。敵と呼べるものはなく、ただ消耗し疲弊しそして滅ぶのだ。”
海は油と血で染まり、大量の少女が死んだ。そう少女だ。
死んだのは少女だった。誰も、知らなかった。
大半の少女は孤児であった。科学者たちの苦肉の策。
思春期の少女たちは何者かになりたいという願望を持っている。その心的性質と身体的変化の時期というのは艦隊化にきわめて有効だった。思春期の少女に艦隊の記憶を注入し、身体を艦隊化させる技術。いわゆる艦娘と呼ばれる少女たちがこの戦争の主な犠牲であった。
突如発生した地球外生命体(以下深海棲艦と書く)への対応は急務であり、
ある少女の日記は艦娘として利用された少女たちの記憶として受け継がれてる。
〇月✕日
本日付で鎮守府に着任しました!今日から日記をつけていこうかなと思います。
提督さんはなんだか思ってたよりもずっと頼りなさな人でした……(怒られちゃうかな?日記だし、いいよね?)
先輩たちはとてもカッコよかったです。(私もあんな風になれるかな。いや、ならなくちゃだよね! 訓練あるのみ!)
〇月◇日
忙しくて久しぶりになってしまいました。
戦闘も鎮守府での共同生活も何もかも初めてのことばっかりで……
でも、私ここ好きです。 もちろん戦いは大変なんだけど、みんながここを家だって思ってて。
そうです。提督さん、頼りなさそうなんて言ったけど凄かった。
的確でそれでいて大胆な指示。私も役に立ちたい!って本当にそう思える人です。
誰かのための戦争なんて分からないけれども、提督さんと先輩たちとみんなとの日常を守りたい(どうして艦娘になったんだっけ)。そう心から思えました。
〇月▢日
加賀さんが轟沈しました。今日は追悼式です。
私だって敵を倒します。だから何をそんなことをって言われるかもしれないけれど悲しいし、怖いし、敵が憎い。
戦争がなければ死ななかった人がいます。戦争は一つの外交手段だと、コミュニケーションの一種だと学校で教わりました。
(黒塗りにされていた)
愚痴っぽくなっちゃったし、ダメですね。守るべきものがある。私は私にできることをする。きっと提督やもっと偉い人たちが戦争を終わらせることを考えているはずだから。
▽月☆日
また日が開いちゃいましたね。
加賀さんが轟沈したくらいから、敵が強くなったような気がします。けがをして帰ってくる仲間も増えたし、なんだか提督もすこし顔がこわばっているような……
戦闘中も被弾する仲間を見ることが増えました。艦娘の特性と言われているのですがダメージを受けると錯乱状態に入ることがあります。存在しない記憶を思い出したかのようなことを口にすると。加賀さんが亡くなった時も陽介先生、陽介先生と……
思い出すのはやめましょう。そうです、少し楽しいことがありました!
ムードを変えようって那珂さんがライブを始めて、久しぶりに楽しかったなあ。
やっぱり先輩はカッコいいです!
▽月▽日
加賀さんが、加賀さんが来ました。
何を書けばいいか分かりません。もう少しまとまってからまた。
✕月〇日
新しく来た加賀さんは鎮守府に来てからの記憶がないみたいでした。新入りとして扱われるみたい。
何が何だか分からないけれども、加賀さんが戻ってきたのなら嬉しい。嬉しいんだけど、なんだかモヤモヤとした気持ち……
今度執務室に行ったときにでも提督さんに聞いてみようと思います。
✕月▢日
黒い海の向こうに私がいました。間違いなかった。見間違うはずがない。
敵は誰なのか知らされることはなかった。学校でも戦闘前にも。
誰とも話をしなかった。何のための戦争なのか。
”私”を見た日のあとで、最近ぼーっとしてると先輩から注意を受けました。
私は、私は知りたい。あれが何だったのか。私たちがなんなのか。
X月▽日(赤字は黒く塗りつぶされていたものを復元したもの)
大破、してしまいました。今は医務室で日記を書いています。
痛い、痛い、痛い。陽介先生、どうして。どうして。
どうにも頭が混乱しています。提督は時々お見舞いに来ては資源がなくて、本当にすまないと。そもそもぼんやりしていた私が悪いのですというと提督はすまないと言って黙りこくってしまうのです。
ねえ、先生。助けてよ。痛いのは嫌。あたしは帰りたいの。先生。
状態の悪い私を見るために偉い人が来ると聞きました。見苦しい姿を見せるのは恥ずかしいですが、上層部の判断次第では資源を回していただけるとのこと。
✕月✕日
記録
だから、中破大破したらすぐ下がれと言ってるんだ。また敵を増やしたな。分かっているのか、この戦争に敵はいないんだぞ。
中破したら下げろ、資源を使わせるわけにも下手に轟沈して敵に奪われるわけにもいかん。艦娘のコストを考えろ。孤児を使ってるとはいえ人権団体がうるさくてな。矢面の立たんくせにいっちょまえに人権などとぬかしやがって。
とりあえずだ。当初の予定は大幅に狂った。軍の研究課は初期設定のミスだと言ってるが、あいつらは楽しんでやってるんだろう。コスト削減のために始めた戦争が財政を圧迫している現状を陛下は良く思われていない。早期に研究課の馬鹿どものケツをふくためにも中破した艦娘は下げろ、こちらで処理をする。
くだらない情は捨てろ。お前の孤児院が無事なのも軍の支援あってのものだろう。必要なことだ。
ああ、あの艦娘もスクラップだ。レベルが上がりすぎたな。敵にとられると厄介だ。
✕月
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あとがき
どうも、イーナです。
本当はね、性癖マシマシのssがあったんですが、まあカロリー過多ということで僕の個人ブログの方にあげます。
もともと艦娘の設定についての妄想みたいなのがありまして、艦娘ってのは孤児院の少女で改造されて記憶を注入されており……みたいな。それを元に書いた感じです。どうも日記帳で書くというのは初めてだし、あんまりうまくかけていない気もするのですが、まあこんなもんでしょう。気楽に書いたらいいんです。